【短期シリーズ】「子ども中心の支援」のために、今始めるべきわたし達のアクション vol.2 ー 矢印の向きは、スタッフみんな一緒 2 ー
私たちデジリハでは、リハビリツール「デジリハ」の開発・提供を通して、たくさんの障害児者支援の現場と接点を持たせていただいています。
そうしたお悩みの一番大事なところを掘り下げていくと、「療育の現場をいかにしてチームにできるか」がポイントだといえそうです。
今回はこの記事シリーズの第2回として、特定非営利活動法人 EPO ここねの代表・齋藤えりかさん。そして理学療法士の宮代祐希さんへのインタビュー後半をお送りします。
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スタッフ同士で共有できる「共通の足がかり」として使える
――チームビルディングに関わることについて質問します。デジリハを使うことで、当事者への関わり方について、スタッフの方同士で話をしやすくなった、意識合わせをしやすくなった、といった面はありますか。
齋藤:まず前提をお話ししますと、私たちは日々の活動の中で、スタッフ間
でお子さんの様子や特記事項について、きちんと共有できるようにいろいろな実践をしています。
デジリハについては、先ほどお話をしましたように、私たちスタッフがアプリのことを知り、併せてお子さんの特性を知ることで、本来のポテンシャルが発揮されることが分かってきました。
しかし、スタッフが手を出しすぎちゃうと、かえって良くないようです。うまいサポートの加減を見つけることで、お子さんご本人がデジリハに前向きになって取り組んでくれます。そのあたりは私たちも日々勉強です。
デジリハを利用し始めてからの最初の2年ほどは、スタッフそれぞれがどう活用するのがいいのか、試行錯誤が多かったですね。子どもへの支援が終わった後に、スタッフのみんなで意見をシェアする機会をよく設けていました。サポートの具合がうまく調整できたとき、やっぱりスタッフとしても嬉しい。だんだんとスタッフもデジリハの使い方が上手になってきたなと思っています。
そこから考えますと、デジリハを導入してからは、スタッフ同士で、お子さんの状態を共有するための材料を明確にしたうえで相談ができるようになったと思います。それ以前は、毎月いろいろなバリエーションのある活動をする中で振り返りをする、というやり方が中心でした。もちろん、以前もその場その場できちんと振り返りをしていました。けれども、バリエーションがあるとサポートの視点も変わるし、工程も違いますので。総じて、デジリハを通じて、お子さんの成長していく姿を、スタッフみんなで見守っていくことができるようになってきたように思います。
――デジリハが、お子さんへの関わり方をスタッフで共に考えて、成長を見守っていくための「共通の足がかり」として使えている、ということですね。デジリハを今後引き続きリハビリに活用する場合に、理学療法士である宮代さんの目から見て、どのような機能が付与されたら有効だと思いますか?
宮代:障がいがあるお子さんは、その状態の個別性が非常に高いという事情があります。重症心身障がいのお子さんは心身の状態の個別性が特に高いため、何か共通的な評価指標を設けるのが非常に難しいんです。例えばリハビリで器具を握るという動作に取り組む場合、その握り方のアプローチをお子さんごとに変えなければいけません。身体の変形の度合いや筋肉の緊張の度合いが異なるためです。
ただそれでも、デジリハで個々のお子さんの遊び方についてのデータが取れて、それを後から分析する機能がついたら、そのお子さんが継続的にリハビ
リに取り組む際の目安として使える可能性はありますね。
専門職同士の会を設けて「横の交流」を促進
――ここねさんは現在、3つの拠点で4つの事業所を運営されています。拠点や事業所は分かれていますが、「ひとつのここね」さんという「チーム」であると見なすことができるかと思います。ここねさんのスタッフの方々がお子さんやそのご家族をしっかりサポートできるようにと、齋藤さんとして何か心がけていらっしゃることはありますか?
齋藤:コミュニケーションをしっかり取ることを大事にしています。各事業所ごとの朝・夕のミーティングはもちろんですが、先ほど話題に出しましたお子さんの送迎中の時間などは、スタッフ同士でお話ができる貴重な時間でもあります。
そのためにいろいろな取り組みをしているのですが、その1つが2023年度から立ち上げている「看護師会」です。それぞれの事業所に看護師さんが所属していて、事業所横断であるこの会をつくることで、同じ立場の看護師さん同士で意見交換ができるようにしました。まずは定例会として看護師さんみんなでオンラインで顔を合わせるということから始めています。今後は、同じようにセラピストさんの会議も立ち上げようと考えています。
お子さんを相手にしていますので、経営者としてはスタッフには心に余裕がある状態で働いてほしいという思いがあります。そこで、仕事内容でとにかく無駄を省き、きちんと意味のある業務に携わってもらえるよう意識しています。残業をなるべく作らず、プライベートの時間も大事にしてもらいたい。オンとオフをしっかりすることで、気持ちよくお仕事に向かってもらえますので。
そのためにもいつも気にかけているのは、スタッフの顔色ですね。コミュニケーションを取りながら、今どんな仕事を持っていてどんな状況なのかを把握するようにしています。
これに加えて大切にしているのは、年に2回実施している、各スタッフとの面談です。ここでスタッフの皆さんの現状について話を聞きながら、どんな点が素晴らしいと思っているのか、今後はこういう方向で頑張ってもらいたいですとか、そういった目標設定やビジョンを共有できるようにしています。これを丁寧に実施すると、皆さんのやる気も上がり、職場全体の雰囲気も良くなります。結果として、チームとしてのコミュニケーションの質も高まると感じています。
――2023年度に立ち上げられた看護師会は興味深いですね。こちらにはどんな期待をしていますか?
齋藤:重症心身障がいのお子さんを受け入れていることから考えますと、私たちは「看護師さんありきの事業所」でもあります。また、私を含めて医療職ではないスタッフにとって看護師さんの意見はとても勉強にもなるので、その意見をしっかり吸い上げていくのはとても大切です。
看護師会に対して私が期待しているのは、例えば医療的ケアが必要なお子さんを安全に受け入れるためにはどんなことが必要なのか、例えば法人として整えておくべきハード・ソフト面のことを検討して、それを全スタッフで共有することです。そうしておけば、例えば医療分野の資格がないスタッフでも、実務には携われないまでも、お子さんのどこを注意しておけばいいのか頭に入っていれば動きやすいと考えました。
当然、ほかのスタッフは医療的なことはできません。けれども、看護師さんが動くに当たって、お子さんに必要なものや作業の流れが理解できていれば、関わり方が変わってくるはずです。
ここねではスタッフそれぞれの専門を尊重したうえで、みんなで業務をカバーして、必要なところを資格を保有している人が担当する、という体制にしています。ここねではスタッフ向けの研修も行っていますが、看護師のスタッフが講師になって心肺蘇生など医療面の内容を教えてもらっています。また看護だけではなく、理学療法士の宮代さんがお子さんの抱っこの仕方などをレクチャーしてもらったりしています。
一方で、ここねのスタッフになってもらったら、看護師さんであっても送迎にも携わってもらいますし、一緒にお子さんとも遊んでもらいます。オムツ交換もします。もちろん看護師さんでしかできない仕事はありますので、その時にはさっとほかのスタッフが替わりますが、それが終わったらまた元の場所に戻ってもらうといった動き方です。採用面接の時には「ここねではそういう働き方ですが大丈夫ですか。それでよければ一緒に働きませんか」と聞いています。
――ここねさんでは、最初からその点を力点を置いた採用をしているのですね。
齋藤:私がここねを立ち上げる時、ケアやリハビリを前面に出すのではなく、子どもたちに遊びを提供したいという思いがありました。採用時からこの点を説明しているため、「医療のスキルを発揮したいけどお子さんが可愛くて」という具合に、ここねが大切にしていることに共感してくださる方たちが入ってくださっています。
宮代:私は理学療法士ではありますが、それだけをやりたくてここねに入ったわけではありません。採用面接の時、「お子さんと遊べる理学療法士になりたいんです」と言いました。その点では(ここねは就職先として)ドンピシャでマッチしていましたね。
齋藤:事業所さんごとに考えがあるのでどちらが良いとは言えませんが、たまに他所さんのお話を聞くと、専門職ごとに考え方が分かれてしまうという状況はあるようです。「どうやったら一緒に遊べますかね」というお悩みを耳にすることもあります。
――そのお悩みはどんな雰囲気なのか、差し支えない範囲でうかがえますか。
齋藤:お悩みのポイントだけを挙げますと、「事業所を立ち上げたけれども、通所してくださるお子さんが増えない」「事業所としてこうしたいんだという考え方がうまくスタッフに伝わりきれていない」「スタッフ間の連携がうまくいっていない」といった内容が多いですね。
児発や放デイは、いろんな業務が絡み合っていて、それをうまくカバーすることで回っていきます。もちろん、そうはいってもそれぞれの専門性があるのでほかのスタッフが手を出せないことはあります。ですが、詳しいことは分からなかったとしても、ポイントを知っていれば、お互いサポートしようという気持ちが生まれます。
お悩みを聞くと、看護師さんから「これ以上の人数は受け入れられない」と言われて仕方なく受け入れを制限しているというケースもあるようです。でも、もしかしたら、管理者も含めて他のスタッフとうまく協力することで、もう少し受け入れられるのかもしれません。
スタッフ同士で少し歩み寄るだけでも、空気感は変わると思うんです。ここねのスタッフは、その視点を大切にしています。
【要望に応え実現、重症心身障がい児の遊び本「ここねあそび」通信販売を開始】
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000113873.html
「矢印の向いている方向」を同じくする
――放デイや児発では、事務所のスタッフ、特に有資格者の定着率の底上げが課題だという指摘が出てきています。おそらく、有資格者の場合は「放デイや児発では自分の専門性が発揮できない」といった不満を持ちやすいのかもしれないと推察しています。この点は、いかがでしょうか。
齋藤:ここねでは採用面接で「うちではこういう考え方ですが」と説明して、納得いただいた方が入ってきているという認識です。ただ、職場に入ってみて初めて、自分と合う・合わないがわかるということもあります。実際、過去には「私は足手まといになってしまう」といった理由でお辞めになった方もいました。ただそれは本当に少ないケースでして、ほぼ皆さん、ずっとここねに勤め続けてくださっています。
「1年も経っていないけど、もう前からいたって感じだよね」という雰囲気の方も多いです。それはスタッフそれぞれで持っているものは違うけれど、矢印の向きがみんな一緒だからではないかなと思っています。
宮代:セラピストの立場で言いますと、専門性を発揮してこれをやりたいという考え方が強い人は、もしかしたらここねは合わないのかもしれません。また逆にあまりにもセラピストとしての専門性ばかりを求められて、ほかのことは任されないとなると、私自身は戸惑うかもしれません。そのくらい、ここではスタッフみんなでお子さんと接することが求められています。
一方で、得意ではないところは、他の人がカバーしています。例えば私は機械は得意な方ではないのですが、場をアレンジするのは得意です。デジリハやろうよと立ち上げていくプロセスの中で、スタッフのみんなに手伝ってもらいながら、みんなの新しい側面を知ることもできました。
――経営者である齋藤さんがスタッフの皆さんと同じ目線でお子さんに向き合っておられる点も、ここねさんがチームとして一体的に動けている理由かもしれません。示唆に富むお話、ありがとうございました。
【企業情報】
特定非営利活動法人EPO:https://epo-farm.com/
ここね:http://co-co-ne.jp/
COCOLON オンラインサイト:https://co-co-lon.com/【SNS】
EPO:https://twitter.com/cocone_epo
齋藤様:https://twitter.com/s_erika1202
宮代様:https://twitter.com/miyakun_cocone
更新日:2024年11月26日
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